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名古屋地方裁判所 平成4年(わ)830号 判決 1992年10月26日

本店所在地

愛知県小牧市大字横内字西横内六七番地の一

大和金属工業株式会社

(代表者代表取締役 丹羽猛男)

本籍・住居

名古屋市名東区平和が丘四丁目一〇八番地

会社役員

丹羽猛男

昭和一二年一二月一九日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官佐野仁志、弁護人正村俊記各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人大和金属工業株式会社を罰金三二〇〇円に、被告人丹波猛男を判示第一及び第二の罪につき懲役一年に、判示第三の罪につき懲役六月にそれぞれ処する。

被告人丹羽猛男に対し、この裁判確定の日から四年間その各刑の執行を猶予し、右猶予の期間中それぞれ保護観察に付する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人大和金属工業株式会社(以下「被告会社」という。)は、愛知県小牧市大字横内字西横内六七番地の一に本店を置き、一般建築施工設計等を目的とする資本金一、二〇〇万円の株式会社であり、被告人丹羽猛男は被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人丹羽猛男は被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空外注費を計上するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上

第一  昭和六三年三月一日から平成元年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が、一億五、二五六万七、六二五円であったにもかかわらず、同年四月二八日、愛知県小牧市小牧一九五〇番地所在の所轄小牧税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が五、八四三万六、四六五円であり、これに対する法人税額が二、二五六万二、九〇〇円である旨の虚偽の法人税額確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額六、二〇九万七、九〇〇円と右申告税額との差額三、九五三万五、〇〇〇円を免れ

第二  平成元年三月一日から平成二年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が、二億三、六五三万九、五四〇円であったにもかかわらず、同年五月一日、前記小牧税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一億一、二一九万四、三九〇円であり、これに対する法人税額が四、四九六万一、七〇〇円である旨の虚偽の法人税額確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額九、七一八万六、六〇〇円と右申告税額との差額五、二二二万四、九〇〇円を免れ

第三  平成二年三月一日から平成三年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が、二億一、六二四万五、四二五円であったにもかかわらず、同年四月三〇日、前記小牧税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一億四、四一五万七九九円であり、これに対する法人税額が五、四七〇万七、三〇〇円である旨の虚偽の法人税額確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額八、三五四万五、三〇〇円と右申告税額との差額二、八八三万八、〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告会社代表者兼被告人丹羽猛男の当公判廷における供述

一  被告人丹羽猛男の検察官に対する供述調書四通

一  永井よし子の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官戸田政雄作成の査察官調査書七通(検察官証拠請求番号甲5ないし10、13)

一  大蔵事務官飯田勤作成の査察官調査書二通(同甲11、12)

一  登記官作成の商業登記簿謄本

判示第一の事実について

一  小牧税務署長作成の証明書(平成元年四月二八日申告分の法人税確定申告書写)

一  小牧税務署長作成の証明書(平成四年一月二九日申告分の法人税修正申告書写、同甲14)

判示第二の事実について

一  小牧税務署長作成の証明書(平成二年五月一日申告分の法人税確定申告書写)

一  小牧税務署長作成の証明書(平成四年一月二九日申告分の法人税修正申告書写、同甲15)

判示第三の事実について

一  小牧税務署長作成の証明書(平成三年四月三〇日申告分の法人税確定申告書写)

一  小牧税務署長作成の証明書(平成四年一月二九日申告分の法人税修正申告書写、同甲16)

(確定裁判)

被告人丹羽猛男は、平成二年一〇月一日名古屋地方裁判所で傷害、監禁罪により懲役二年・執行猶予三年に処せられ、右裁判は同年一〇月一六日確定したものであって、この事実は同被告人に対する右判決書謄本及び検察事務官作成の前科調書によって認める。

(法令の適用)

被告人らの判示各所為は、各事業年度ごとに法人税法一五九条一項(被告会社については、さらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告会社については情状により同法一五九条二項を適用し、被告人については所定刑中懲役刑を選択することとし、被告会社について以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内において罰金三、二〇〇万円に、被告人については、判示第一、第二の各罪と前記確定裁判のあった傷害、監禁罪とは同法四五条後段による併合罪であるから、同法五〇条よりまだ裁判を経ていない判示第一、第二の各罪についてさらに処断することとし、なお、右の各罪もまた同法四五条前段により併合罪の関係にあるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判事第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年に、判示第三の罪についてその刑期の範囲内で懲役六月にそれぞれ処し、判示第一及び第二の罪について、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予し、同法二五条の二第一項前段により右猶予の期間中被告人を保護観察に付することとし、判示第三の罪については、平成二年一〇月一日名古屋地方裁判所で傷害、監禁罪により懲役二年に処せられ、三年間右刑の執行を猶予され、その猶予期間中に犯したものであるが、情状特に憫諒すべきものがあるから、同法二五条二項を適用してこの裁判の確定した日から四年間その刑の執行を猶予し、同法二五条の二第一項後段により被告人を保護観察に付することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告会社の三事業年度の所得において、架空仕入、架空外注費を計上するなどして合計二億九千万円余の所得を秘匿し、一億二〇五九万円余の税金をほ脱したものであり、ほ脱税額が多額である上、ほ脱率も三期平均で四九・六六パーセントであること、犯行動機も個人の財産を蓄積したいとの自己中心的な動機からであること、罪質は異なるが、被告人には前科もあり、規範意識に乏しい面が窺われること等併せ考えると被告人らの刑事責任は軽くないと言える。

しかしながら、被告人は深く反省悔悟し、正規の税金との差額と延滞税は既に納付済であり、重加算税も手形で順調に納付、決済されつつあり、再犯防止を誓って今回の事件で失われた取引先等に対する信頼回復に努めていること、被告人の健康状態など併せ考えると、判示第一、第二の罪及び第三の罪のいずれについても執行猶予に付する余地があるものと思料される。ただ、被告人の遵法精神にやや欠ける点や前科に鑑みると、第一、第二の罪についても第三の罪と同様、猶予期間中保護観察に付するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 大山貞雄)

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